2つの価値観

朝、録りためていたテレビを見る。

●「トルストイの家出」
Eテレで2010年に放送された晩年のトルストイとその妻ソフィアの日記をたどる番組。
トルストイが彼の理想・思想に基づき遺言で著作権の放棄など財産を社会へ還元しようとするのに対して、
ソフィアはあくまで現実的に家族を養っていきたいと拒み、激しい確執が生まれる。
トルストイの日記には「私とソフィアは人生の意義と意味を正反対に理解している・・」と述べられていて、
トルストイもソフィアもノイローゼになるほど苦しみ続け、
結局、トルストイは82歳という高齢で体調が悪いのを押しても家出を決意し、無理がたたって一週間後に亡くなる。
おそらくどちらも悪くはないのだろうけれども、「どうしてわかってくれないんだ!」と苦しんでいる。
(結局土地などの財産は子どもたちの手元にも周辺の小作人にも渡らずソビエト共産党に没収されてしまう)


●「太宰治 短編小説集 グッド・バイ
これも2010年にNHK-BS2放送されたもの。歌手のUAの朗読と
美しいアーティスティックなアニメーション
この作品に限らず、このシリーズで放送された作品はどれも美しく、
かつ太宰治の空気感・芸術性を上手く再現している。


●「週刊ブックレビュー」ゲスト 朝吹真理子
これも2010年NHK-BS2に放送されたもの 小説「流跡」が単行本として発売されたのに合わせての出演
言葉の使い方がゆっくりでとぎれとぎれであるが、繊細でかつ新鮮。
古語辞典を読むのがお好きと伺ったんですが・・」という守本奈実アナの質問に対して
以下のような回答をされる。

匿名の人たちの規則音(?)とか生きていた匂いとか気配とかをすごく知りたいと思う。
角川古語大辞典などすごくおっきい辞書を開くと全部のページに絶滅してしてしまった言葉たちがたくさん並んでいる。
確かにある時代まではきちんとした運動ができていたのにどういうわけか今は伝わらない言葉としてある。
当時の人々の匿名のくちびるの痕跡みたいなものが言葉一つ一つにたくさん折り重なっている気がしてその声が聞きたと思う。


言葉に対して私は彼女ほどのこだわりや関心はないけれども、
彼女の感覚がとても理解できる。

流跡

流跡

(↑文庫版は明々後日5/28発売)


昨年購入した大田俊寛オウム真理教の精神史−ロマン主義全体主義原理主義
に記載されているロマン主義の解説を興味深く読む。

オウム真理教の精神史―ロマン主義・全体主義・原理主義

オウム真理教の精神史―ロマン主義・全体主義・原理主義

1800年ごろに生まれたロマン主義は近代思想における2つの潮流のうちの1つとされ(もう一つは啓蒙主義
以下の様な特徴を持つ。

1:「感情の重視」
啓蒙主義において、人間に普遍的に備わる理性が重視されるのに対して、
ロマン主義においては、個人の内面に湧き上がる独特の感情にこそ、人間の本質が現れると見なされる。


2:「自然への回帰」
啓蒙主義では、理性に基づく世界秩序の解明や社会建設が企図されるが、
ロマン主義では、人為的な所作を捨てて自然に回帰するべきであると主張される。


3:「不可視の次元の探求」
啓蒙主義では、すべてのものは理性の光によって照らしだされると考えるが、
ロマン主義は目には見えないものこそが世界の基底になっていると考え、その存在を探求する。


4:「生成の愛好」
啓蒙主義では、明晰な記述によって事物の本性を固定的に捉えることが目指されるが、
ロマン主義では、常に変化し続けるもの、流体的なものが愛好される。


5:「個人の固有性」
啓蒙主義は人間が合理的な契約を取り交わすことによって社会を形成しうると考えるが、
ロマン主義は人間の共同体が成立するためには契約などでは生み出しえない民族的固有性が不可欠であると主張する。


全般的に言えば、啓蒙主義がフランスやイギリスといった近代化先進国で進展し、
自然科学や政治学に重心を置いていたのに対して、ロマン主義は近代化後進国であるドイツで興隆し、
文学や芸術論、および宗教論に重心を置いていたと見ることができる (52頁)


ここで述べられるロマン主義は私が重視している感覚と近く、私も啓蒙主義だけでは満足できない。
トルストイロマン主義の作家ではないけれども、トルストイと妻ソフィアにおける人生の意義と意味の違いは
この主義の違いによく似ている気がする。
そしてソフィアのような考えを持つ人たちは今もたくさんいてそれはそれで正しいのだと思う。