厳しい環境で育てたトマトのことなど

今朝の朝刊に綿矢りささんの「ポメラニヤン」
という書きおろし読み切り作品が掲載されている。

「要するに、厳しい環境で育てたトマトは甘い、
みたいな生き方は、したくないってことですよ」

という主人公のセリフから始まる
子犬を飼い始めて仕事への意欲(あるいは目的)を喪失してしまう女性作家の話だけれども、
このセリフは、私も含めて現代の(一部の)若者を象徴する価値観であり、
「留学や海外赴任を避けたがる若者」と批判される像とも重なる。

「逃げじゃない。お母さんは、幸福の終わりについて、考えたことある?
すべてを手に入れれば、もう追い続けなくていいんだよ。
完全にまるくなって、すべてが報われる。
大丈夫、路頭に迷わない程度には、バイトとかして働くから」

<中略>

「だから甘いトマトを作る技法は、もういらないんだってば。
あえて辛く寂しい状況に自分を置いて、よりよい作品を作る、
ドエスな努力はもうしたくない」

と、主人公は弁明している。



NHKの春の新番組紹介で目に入った夏目漱石「こころ」が気になり、
今までに二度読んだけれども、また通勤時読み返している。


暗い作品だと評価されることも多いけれど、
この作品に漂う空気感が、とても好きで、
改めて一番好きな作家は夏目漱石だと実感する。

こころ (新潮文庫)

こころ (新潮文庫)


今週触れたメディア
1:BSフジ「小山薫堂 東京会議」
まさに東京らしい、デザイン性の高い番組
「隅田川ルネサンス」という隅田川活性化の区の企画のロゴの
コンペの審査通過者のプレゼンテーションが流れる。
半ばバラエティのようなゆるい空気が流れている。
http://www.bsfuji.tv/tokyokaigi/hi/76.html


2:ネット放送「マル激トーク・オン・ディマンド」
「われわれの「食」はどこに向かうのか」と題して、
食材の問題を数本のドキュメンタリー映画を取り上げて議論している。
VIDEO NEWS[5金スペシャル]われわれの「食」はどこに向かうのか »
(今週は無料放送)
『世界が食べられなくなる日』(フランス)
フード・インク』(アメリカ)
『ありあまるごちそう』(オーストラリア)
『よみがえりのレシピ』(日本)

フード・インク」については、昨年このブログでも記載した。
食・住・衣の.INC 役割とマニュアル - 心象図録


議論の中で、宮台真司さんが、
「自分はそれどころじゃない問題」というものについて触れていた。
(おそらく宮台氏の造語)
今回の食の問題で言えば、
遺伝子組み換えしていないとか、有機農法の作物とか、
そういった選択をできるのは、ある一定の所得層以上のゆとりを持った人々であって、
自分たちはそんなものを選んで購入している心のゆとりもお金も時間もない。」
と、あきらめてしまう人々のことである。


食にかぎらず、「自分はそれどころじゃない」と
民主主義における市民としての熟議や、教育や、文化活動や、福祉活動や、
私たち(私自身)が、放棄している活動は結構多い。


「それどころじゃない」と言わないことと、
「厳しい環境で育てたトマトは甘い、みたいな生き方はしたくない」とは、
案外共通項がある気がするのだけれども・・深く考えるゆとりがない・・・。