お半長のリアリティ

文楽が色々な意味で注目されている中
先日、NHKで「桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)」が放送されていた。


桂川連理柵」と言われると読み方もわからないが、
「お半長」と言われると私はわかる。


10年ほど前から落語に興味を持ち図書館で借りたものを録音し、よく聴いている。
中でも桂米朝さんの噺は繰り返し繰り返し聴いている。


米朝落語全集のうち私が持っている72演目の中で、
一番、よくできていると感じるのが、
この「お半長」が後半部の主題をなす「胴乱の幸助」という演目である。


どの落語の演目をとっても「愛すべき妙な男」を中心に噺が構成されているが、この演目も同様。
若い時に着の身着のまま田舎から出てきて、
脇目もふらず遊びもせず大変な努力をして商店の主となった男:幸助(割木屋のおっさん)は、
その真面目さゆえに何の道楽も持たないが、唯一「喧嘩の仲裁をする」という趣味を持っている。
その変わった趣味をさまざまな人から馬鹿にされるという話である。


前半部分は、お酒を飲みたいがために(仲裁の場としてこの幸助は決まって小料理屋へ連れていくので)
偽物の喧嘩をするチャラチャラした男2人とのやりとり。
この部分の主人公はチャラチャラした男たちであり、
ボケた男とずる賢い男の漫才のような掛け合いが笑いの中心となっていて、
幸助は聴き手に徹するまともな人間として扱われている。



偽物の喧嘩の仲裁に成功した幸助は、
理由も曖昧で、訳もなく仲直りさせたことでは、
求めていたカタルシスを得られず、他に喧嘩はないかと、町を巡回する。
(この部分で、主人公が幸助に変わる)


場面が変わり浄瑠璃の稽古屋
ここで「桂川連理柵:帯屋の段」の義太夫の稽古が行われている。
ここでの中心は稽古屋の師匠と習いに来ている下手な生徒の掛け合い。
生徒のリクエストにより、帯屋の段 嫁いじめの部分が繰り返し練習されていて、
その様子を、町内の人が格子窓の外から眺め笑っている。


それを、本物の嫁いじめだと早合点した幸助が、
「人様の喧嘩見て止めもせんと笑うなんて・・」と憤り、
喧嘩の仲裁をしようと稽古屋の中に入ってくる。


驚いた師匠が、訳を説明するが、
幸助:「お半長てなんじゃい?」
師匠:「浄瑠璃だすがな」
幸助:「浄瑠璃てなんじゃい?」と話が通じない。


その後、京都(「桂川連理柵」の舞台)まで喧嘩を仲裁に行く」という幸助
師匠たちも、幸助をなぶり、丁寧に住所と店名を書いて渡す。


場面が変わり京都
実際にその場所に帯屋があり、そこで仲裁をしようと番頭に話をすると、
「なにゆうてまんねん、お半と長右衛門ならとうに桂川で心中しましたがな」
「しもた、汽車で来たらよかった」で下げとなる。(幸助は夜船で京都へ来た)


YouTubeでは米朝師匠よりも40歳位上年長の橘ノ圓都師匠の「どうらんの幸助」もUPされているが、
こちらの方は、「桂川連理柵」の配役や、ストーリーがより詳しく説明されている。
米朝師匠があえてここを割愛したのは、この落語を聞く人が逆に、
より「桂川連理柵」から遠のいてしまったからだと思う。
(いっそ説明も省略し、「桂川連理柵」を知らなくてもこの落語を楽しめるようにアレンジした)



中沢新一氏と平川克美氏の対談「グリーンアクティブと経済」においても、
短く文楽について触れられていて、(購入サイト
中沢さんは「文楽は、決して高尚な芸能などではなく、あくまで庶民の芸の高い到達点、
吉本の芸が到達している部分よりもずっと高度で、大阪の宝中の宝なのに・・」と
橋本市長の行動に不快感を示している。


とはいえ、いざ「桂川連理柵」の録画を見始めると、
他のエンターテイメントと同じ視点で眺めてしまい正直、退屈さを覚える。


「お半長」はいろいろあって(このいろいろは複雑なので省略)
まだ14歳のお半が、40過ぎの中年男の長右衛門の子供を懐妊し、
いろいろあって(このいろいろも複雑なので省略)心中するという話。


「14歳と40男?!」という部分は創作時(1776年)も今も、興味を喚起する部分であると思うが、
その行為のリアリティが、今の人に伝えきれていないのだと思う。


桂川連理柵」が上演されると聞いて、例えば「ロリ規制に引っかかるのではないか?」
(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律)
などと心配する人がいないという部分で、
このお話を上演するという事が上品になりすぎて枯れてしまっているのだと思う。

特選!! 米朝 落語全集 第二十二集

特選!! 米朝 落語全集 第二十二集


上方落語 桂米朝コレクション〈6〉事件発生 (ちくま文庫)

上方落語 桂米朝コレクション〈6〉事件発生 (ちくま文庫)


(上に貼った動画は、CDの音源と異なる時期の映像、CDの方が面白い)