槇文彦とMITメディアラボの空間

a+u臨時増刊 槇文彦の近作 2012年 07月号を買って眺める。


2007年から2015年のプロジェクトを集めたもの
写真だけを眺めていると、正直、眼がスーと通過してしまうインパクトの弱い内容である。


巻頭には「空間の力」と題された槇さん自身によるエッセイが掲載されている。
一部引用する。

空間の豊かさを決定する様々な要因の中でその空間が外部に接する部分、
いわゆる接触領域のディテールは特に重要である。
昨今3Dモデルの画像から誕生した複雑な局面体を持った建築が
「アイコニック」という名称のもとに流行しているが、
本来この部分のデザインは外からの姿と内部からの境界にたいする要請
から決定されるべきことがまったく無視されている建築が少なくない。


特に表層の凹凸の多い建築はそれがロビーの場合はともかく、
ある明確な機能、例えばオフィスの執務空間、あるいは展示空間に利用される場合、
きわめて疑問が多いデザインがある。
その例としてトロントのダニエル・リベスキンドの博物館の展示スペースを挙げることが
できる。私はこれを「古くなったカマンベール建築」という。
つまり外側のクラスト部分だけが厚く、食べる中身が少ないからである。
・・・


建築の現在は一言でいうならば、「どこに何でも有り」という状態が存在しているのだ。


建築とそれをとり巻く環境の社会性を決定するのはその形態ではなく、
空間構成によるところが多い。


建築家・都市計画家の1つの重要な責務は、
与えられた所謂プログラムを超えて、
人々の潜在意識にある願望を見つけだし、それを空間化することである。


空間とは基本的には特定の建築家の考えを超えて
多くの人々が自由に意見を述べ、そこで様々な行動する自由度が与えられているのだ。
このように空間のあり方の当否は形態以上に我々の生活の質のあり方により深くかかわってくる。
それだけにフレキシブルとかオープンな空間というだけでなく、
様々な行為を可能にする創造的な空間のあり方の探求こそが、
次の時代の建築にたいし最も重要なテーマの1つであるに違いない。


しかし一方、空間のこうした特質は建築の形態と異なって、完成直後に判断することは難しい。
それはその空間がどのように利用され、人々がどのように反応しているのかを見極める為には、
半年、1年にわたる観察が必要である。


槇氏が名指しで批判するダニエル・リベスキンドの建物はおそらく
「ロイヤル・オンタリオ博物館」のことであろうと思う。


「空間」という視点で改めてこの作品集を見直してみると、
槇文彦の作品が、形よりも空間の豊かさに主眼を置いて作られているのが意識できる。


最初のスーという私の眺め方は、まさにアイコニックな視点だったと反省する。
(アイコニック:アイコン的な。目立つことや周囲から際立つことをよしとすること)
アイコニックな建物には、それはそれで辟易しているくせに、
まだ新たな視点を獲得できていない。


この作品集の中には2010年3月に完成したMITメディアラボも掲載されている。
昨年、伊藤穣一氏がこの研究所の所長に就任してからは特にメディアで注目されている研究所だが、
この建物が槇氏の設計であることは知らなかった。
News & Updates — MIT Media Lab


MITメディアラボでは、「これが学問なのか?」という時代の先をゆく常識破りな研究をしている
マサチューセッツ工科大学は世界の理系大学の最高峰であり、ある意味変人の集まりでもある。
その彼らが、この建物だからこそこのような動きが実現できる。と
建物の機能・そして空間にとても満足している。
(それは、本書だけでなく、同じくMITメディアラボを取り上げた雑誌
クーリエ・ジャポン2012年1月号にも記載されている。)


「そうなのか、じゃあ彼の真似をして設計をしよう。」と簡単に真似ができるクオリティ
のものではないことはわかってはいるが、シンプルな回答を見せられた気がして勇気が出た。